男性更年期障害のくすり テストステロンと漢方薬
皆さんご存じの通り日本では高齢化が急速に進んでおり、2022年の日本人の平均寿命は男性81歳 女性87歳となっています。平均寿命がのびるとともに元気に生活を送れる期間(健康寿命)を延ばすことも課題となっています。(健康寿命は男性72歳、女性75歳)長生きしたとしてもずっと寝たきりであったり、自立した生活を送れなければ生活への満足度が低下してしまいます。
男性更年期障害は加齢男性性腺機能低下症(LOH症候群)とよばれており、テストステロンの分泌が低下することにより性機能の低下、身体能力の低下、認知機能の低下がおきます。
男性更年期障害の診断はその症状と血中テストステロンの値をみて総合的に判定します。
テストステロンの基準値は
血清遊離型テストステロン(free testosterone)が7.5pg/ml以下
血清総テストステロン(total testosterone)が250ng/dl以下
というのがあります。
日本の保険診療においては両方を測定することができませんので、どちらか一方を検査します。またテストステロンは日内変動があり朝が高くて夕方さがってきますので朝の採血検査がよいです。
上記の基準値を参考にしますが、実際の測定値にかかわらず症状を中心に総合的に診断を行います。つまり測定値が正常範囲内であっても症状がつよければ男性更年期障害と診断し、テストステロン補充療法を行うこともあります。
男性更年期障害に対する治療方法として、テストステロン補充療法が世界中で広く行われていますが
海外では筋肉内投与(注射)、経皮投与(塗り薬)、経口投与(飲み薬)などありますが、現在日本で一般的に使われているのは注射剤による補充療法になります。
テストステロン補充療法以外には漢方薬による治療や、食事療法、運動療法などの併用が効果的とされています。
テストステロンが作用するアンドロゲン受容体はさまざまな臓器に発現しており、補充療法を行う事で身体症状(倦怠感・筋力低下など)や精神症状(意欲低下・抑うつなど)、性機能症状(性欲・勃起・射精の低下)が改善します。だいたい3カ月以内に改善効果が認められますが、注射後すぐに効果を感じる場合もあります。また、2-4週間程度で薬の効果が切れる感覚を感じる場合もあります。
テストステロンの低下によっておきる悪影響として、筋骨格系、代謝系への影響があります。テストステロン補充療法によって
・筋・骨格に対しては筋肉量や筋力の改善、体脂肪量を減少させることができます。これに運動療法をくみあわせることによりさらなる効果が見込めます。
・代謝系の疾患の改善としてはメタボリックシンドロームといわれる高血圧、脂質異常症、糖尿病などのコントロールを改善させることができます。
テストステロンは脳へも影響をあたえており、性欲や活力が低下しますが、仕事への意欲が低下したり、複雑なことを考えられなくなるという症状がでます。抑うつ症状があり治療しているのになかなか改善しない場合、男性更年期障害であったということもあります。テストステロンの補充により抑うつ症状は改善しますが、時として精神疾患も同時に合併していることもありますので注意が必要です。
最後に漢方治療として使われる薬を紹介しておきます
一番よく使われるのが
補中益気湯 → 四肢の倦怠感、虚弱体質の改善、疲労に効果的
人参養栄湯・十全大補湯 → 冷え性、貧血、顔色が悪く、疲労衰弱、体力低下に効果的
柴胡加竜骨牡蛎湯 → 不眠やうつ傾向に効果的