意外と多い性病:マイコプラズマ・ジェニタリウム尿道炎
最近頻度の高い性感染症(STI)のひとつであるマイコプラズマ・ジェニタリウムについて説明しておきたいとおもいます。
20-40歳程度の男性の尿道炎症状(排尿痛・残尿感・頻尿など)の原因は性病であることが多いです。
まず、尿道炎には淋菌性尿道炎とそれ以外の非淋菌性尿道炎に分けられます。非淋菌性尿道炎は男性の尿道炎の6割程度あり、そのうちの半数くらいは Chlamydia trachomatis(クラミジア・トラコマティス)によるクラミジア尿道炎になります。さらに非淋菌性尿道炎の中でもクラミジアが検出されない場合、非クラミジア性 非淋菌性尿道炎とよびます。
そのような場合の原因になる病原体は何なのかという研究がなされてきましたが、オーラルセックスなど性行為の方法が多様化してきたことにより口のなかの細菌も尿道炎の原因として見つかるようになり、現状ではマイコプラズマ・ジェニタリウムと腟トリコモナスが明らかになっています。 マイコプラズマ・ジェニタリウムはMollicutes 網、マイコプラズマ目のグラム陽性菌です。日本における解析では非淋菌性尿道炎の患者さんの15%程度からマイコプラズマ・ジェニタリウムが検出されたと報告されているので、まれな性感染症というわけではありません。
性感染症というだけでなく、マイコプラズマ・ジェニタリウムは尿道炎以外にも,前立腺炎,精巣上体炎,亀頭包皮炎など男性の陰部の感染症とも関係があり、さらには男性不妊症にも影響するという報告もあります。
【症状と検査】
マイコプラズマ尿道炎の症状は非常に多彩で、淋菌のように尿道から白色の混濁した膿がでたり、さらさらの浸出液がでたりということもあります。クラミジアのように排尿時の痛みが強い場合もあればすこし痒いや尿道の違和感があるという程度の軽い症状の場合もあり、症状だけからマイコプラズマ尿道炎かどうかを判別することはできません。
マイコプラズマの検出方法は現在は腟トリコモナスと一緒に行う同時核酸増幅法で行われ保険適応で検査を行うことができます。ただ、本来であればすべての尿道炎においてクラミジアと一緒にマイコプラズマも同時に検査すべきところですが、保険診療の観点からは必ずしもすべての性病検査を同時に行う事はできません。現実的には、原因がよくわからない、クラミジアに準じた薬を使っても症状が治らない、尿検査が改善しない、というような場合に限定的に検査を行っていることが多いです。
【治療方法】
残念ながらクラミジアやマイコプラズマはすぐに検査結果がでないため、初診時に尿道炎症状があった場合は一番頻度が高いクラミジアに効果があるマクロライド系,テトラサイクリン系,ニューキノロン系の抗菌薬を使うことが多いです。これらの薬はマイコプラズマなどの病原体にも効果があるため、たいていの場合は自覚症状や尿検査の所見は改善していくことが多いです。
ただ、現在世界的な問題となっているのはマイコプラズマ・ジェニタリウムの薬剤耐性です。
マイコプラズマ尿道炎の治療にはマクロライド系抗菌薬であるアジスロマシンがよく使われており、2010年頃まではアジスロマイシン1g 単回投与で8割以上に効果が認められていました。
しかし、最近の報告ではマイコプラズマ・ジェニタリウムのアジスロマイシンに対する薬剤耐性は日本では72%,オーストラリア47%、アメリカ48%,デンマーク38%とかなり高く、アジスロマイシンは効果が期待できない状況になっています。
一方で、ニューキノロン系の抗菌薬であるシタフロキサシンは効果が高いとされており、日本でも8割以上でマイコプラズマ尿道炎に効果が認められています。
ただ、マクロライド系もニューキノロン系の抗菌薬も効きにくい多剤耐性のマイコプラズマも見つかっており、そのような場合にはドキシサイクリンやミノサイクリンといったテトラサイクリン系抗菌薬を2週間以上にわたって使うこともあります。
結局のところ、性病が疑われた場合、まずは淋菌、クラミジア、マイコプラズマ、トリコモナスを検査してそれに応じた治療を行うことが大切です。
https://www.azabujuban-clinic.jp/sexually-transmitted-diseases/
https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/guideline_JAID-JSC2018_maleurethritis1805.pdf