すこしずつ腎臓が悪くなっていく病気「慢性腎臓病(CKD)」
腎臓が悪くなって尿を作れなくなってしまった場合には「透析」という治療があります。腎臓には血液をこしとって血液中の毒素を抽出して尿中に排泄するという役割をもっています。
腎臓がなんらかの原因(病気)で働きが悪くなってしまった場合には尿が作られなくなり、生きていくことができなくなります。もし腎臓が生きていくのに十分に機能しなくなった場合には透析という治療が必要になります
透析は血液を体から抜き取って機械で血液をこしとって毒素を捨てた後にふたたび体内にもどします。通常は1回3-4時間で1週間に3回程度おこないます。
いったん透析を始めるようになった場合はその後、体調を維持するためには継続して透析を行う必要があるため、患者さんにとっての拘束時間はながく、また日常生活において水分摂取の制限や、食事の制限も加わりますので生活への負担は大きくなります。腎臓病の原因となる疾患(糖尿病、高血圧など)の進行や年齢とともに腎機能は低下していきますが、できるだけ腎機能低下のスピードをおそくすることが透析にならないために重要になります。
日本で、透析を継続的におこなっている患者さんは、増加の一途をたどっていましたが、2019年以降はほぼよこばいで35万人程度、新規に透析導入となったのは4万人程度となっています。透析を始めることになった原因としては糖尿病を原因とした糖尿病性腎症、IgA腎症などの慢性糸球体腎炎、高血圧による腎硬化症がおもなものになります。
腎機能を高く維持するために大切なことは、高血圧の場合は血圧を適切にコントロールする、糖尿病であれば血糖値を安定させること、になります。
日本で慢性腎臓病(CKD)の患者さんは約2000万人(成人の5人に1人)とされています。慢性腎臓病が悪化すると、末期腎不全(透析)、心血管疾患(心筋梗塞や脳梗塞など)、死亡率の上昇につながりますので腎機能を維持することは非常に大切です
慢性腎臓病(CKD)の定義
①腎障害の存在が明らか
蛋白尿がでている 0.15g/gCr以上の蛋白尿や 30mg/gCr以上のアルブミン尿
蛋白尿以外の異常 が病理や画像検査、検査など認められる
②糸球体濾過量(GFR) 60 mL/min/1.73 m2 未満
①と②のいずれかまたは両方が3カ月以上続く場合
タンパク尿は尿検査で、糸球体濾過量(GFRやCr)は採血で容易に測定できますので、健康診断などでスクリーニングすることが可能です。
腎機能障害は基本的に症状がほとんどありませんので自分がCKDかどうかを認識していないことが多くあります。そのためあまり気にせずそのまま放置して腎機能がだいぶ低下してから気づいて、治療開始が遅れるということになります。
いったん低下した腎機能が改善するということはほとんどありませんので、治療の基本は、腎機能がこれ以上低下しないようにできるだけ長く維持することが目標になります。
規則正しい生活を心がけ、減塩や蛋白質の摂取制限を取り入れた食事管理、そして血圧のコントロールが重要です。
高血圧の場合は降圧薬を使いながら適正血圧を維持する
糖尿病の場合は内服薬またはインスリンで血糖を安定させることが大切です
最近では糖尿病の治療薬であるSGLT2阻害薬(ジャディアンス、フォシーガ、カナグルなど)に腎保護作用があるため有用です
(1)生活習慣
メタボリック症候群などの生活習慣病を予防するためには、適度な運動を行うことがおすすめです。慢性腎臓病の患者さんでは、禁煙や節酒が基本であり、睡眠の質を向上させることも必要です。水分については、心不全やつよい浮腫がある場合を除いて、脱水を避けるために十分に摂取することが大切です。
ふだん常用している漢方薬や鎮痛薬は薬剤性の腎障害を引き起こすリスクがあるため、注意が必要です。また健康食品やサプリメントで腎障害を起こすことがありますので積極的な使用は避けた方が良いです。
(2)食事管理
塩分の過剰摂取は高血圧を引き起こし、それが腎機能障害を悪化させるため、慢性腎臓病の管理には塩分制限が不可欠です。特に浮腫や高血圧が見られる場合、1日の塩分摂取量は6g未満を目指しましょう。
蛋白質の摂取制限については、腎機能の状態に応じて異なります。腎機能が低下すると、働かない糸球体が増え、残って働いている糸球体に大きな負担がかかるため、食事からの蛋白質を制限し、老廃物の排泄を抑えることが重要です。ただし、極端な蛋白制限やカロリー不足は栄養失調を引き起こす可能性があるため、それぞれの患者さんの状態に合わせて食事管理を行うことが大事です。
(3)血圧管理
血圧は130/80 mmHg未満を目指し、尿蛋白が1g/日以上の場合は125/75 mmHg以下を目標とします。生活習慣の改善、塩分制限と併せて降圧薬を使用します。CKDの患者さんには、効果的に血圧を下げながら糸球体への負担を軽減するために、アンジオテンシン受容体拮抗薬やカルシウム拮抗薬がよく用いられます。
(4)体重管理
肥満の管理においては、体重をへらすことが基本です。標準体重は身長(m)の二乗に22を掛けた値を参考にします(BMIが22)が、個人によって体型は異なるため、過去の体重や体脂肪率も考慮されることがあります。またコレステロールや中性脂肪の正常化も重要な目標とされています。
CKDのかたは薬剤性の急性腎障害をおこしやすいため、体調不良の場合は一時休薬するなどの対応をしたほうがよいことがあります。ご飯が食べられないとき、下痢などで脱水状態のときはロキソニン、利尿剤、RA系阻害薬(降圧薬)は急性腎障害をおこしやすく、糖尿病薬のビグアナイド薬は乳酸アシドーシス、SGLT2阻害薬はケトアシドーシスをおこすリスクがあります。